Profile
1959年洛星高等学校卒業(2期生)後、東京大学経済学部卒業。
イエール大学大学院博士課程単位取得退学。
倉敷レイヨン(現 ㈱クラレ)副社長、㈱中国銀行副頭取、学校法人ヴィアトール学園理事、倉敷商工会議所会頭、岡山県教育委員、岡山県文化連盟会長 等歴任。
現在、(公財)大原芸術財団 大原美術館 名誉館長、(一社)人文知応援フォーラム理事・会長として21世紀の社会の安定に大きな役割を果たす「人文知」の重要性を説き、普及に努めている。
他に、(公財)日本民藝館理事、(公財)びわ湖芸術文化財団評議員、(公財)国際高等研究所評議員、(公財)倉敷民藝館理事長兼館長、(公財)大原記念倉敷中央医療機構理事・会長等を兼ねる。
本校の創立間もない時期に在学された2期生の大原さんに、当時の洛星での生活、先生方との関係、そして卒業後も続く洛星への想いについてお話を伺いました。今につながる校風や文化の中で、大原さんがどのように学び、過ごしてこられたのか、その言葉から、洛星という学校の原点が見えてきます。
「学校を自分たちで作る」時代
「僕らはハンドメイドの学園づくりをやってきたと思っています。今のようにグラウンドも整備されておらず、石ころだらけの場所で石を拾って、畑をつくって……。井戸を掘って水を汲み、畑に苗を植えたりもしていました。グラウンドの石拾いは、授業の一環のようなもので、全員で協力して少しずつ整備を進めていました。」
当時の洛星は、生徒自身が学園を形作るという意識が非常に強く、校長先生や神父様、先生たちと共に、自分たちで環境を整えながら日々の生活を送っていたとのことでした。その過程には不便さや苦労もありましたが、だからこそ生まれる達成感や団結力も大きなものでした。「例えば野球をしても、ボールが跳ね返る方向が予想できないくらいの凸凹グラウンドでね。でもそれがまた楽しかった。」と、当時の様子を懐かしそうに語ってくださいました。
厳しさと自由が共存する校風
「先生方も生徒たちも自由自在でした。自由自在と云う中でも、非常に厳しい規範が3つ、静粛・時間厳守・礼儀作法。この3つは徹底されていました。先生が一言「黙想」と言えば、ぴたっと静粛になる。授業に遅れれば始末書、言い訳は一切通じませんでした。更に、来客時には立ち止まり、角度の異なるお辞儀を使い分けて敬意を表する。そんな規範を、先生方から叩き込まれました。」
その一方で、授業中にはユーモアや知的刺激に満ちた“余談”も数多くありました。
「数学の授業中に、先生が突然歌舞伎の名セリフを披露するんです。漢文の授業では、中国語本来のイントネーションで漢文を朗読してくださる先生もいて、そのアクセントがとても印象に残っています。」
こうした“厳しさと自由”の絶妙なバランスが、今に通ずる洛星の教育の特徴であり、生徒たちの学ぶ意欲を引き出していたのです。
先生との深いつながり
「私たちの時代、先生と生徒の距離はとても近かったんです。先生の結婚式に生徒たちが駆けつけて祝福したり、課外活動で一緒に登山やキャンプに行ったりと、学校外での交流も自然とありました。」
先生方の叱り方も時には厳しいものでしたが、その中には愛情と信頼があり、生徒たちも本気で向き合っていたといいます。
「当時は、生徒と教職員の年齢が近いこともあり、生徒を1人の人間として対等に扱ってくれる先生たちでした。」
こうした信頼に裏打ちされた厳しさが、卒業後も長く心に残っているとのことでした。
学園生活を彩ったクラブと行事
洛星は当時から、クラブ活動も盛んで、多彩な文化的・体育的活動が生徒たちの日々を彩っていました。
「私は剣道部に所属していました。今では難しいかもしれませんが、年に一度は学校に泊まり込んでの合宿もありました。夕食はカレーライス、夜には先生方も交えての懇談まで。とても賑やかで、楽しい時間でした。」
文化系では、謡曲部や、演劇部やオーケストラ部などが活躍しており、卒業生の中にはプロの音楽家や演奏家となった方も多くおられます。卒業生の中にはプロの音楽家や演奏家となった方も多く、生徒の中にもすでに師匠級の人もおられました。「歌舞伎や尺八に詳しい先生方が生徒に教えを乞うということもあったのです。」
クラブ活動を通して得た仲間との絆、師弟関係、そして「本物」に触れる経験が、洛星生の成長を支えていました。
洛星で得たもの、これからのつながり
「洛星は“卒業してから伸びる学校”と言われますが、それは本当にその通りだと思います。そして、それは先生も同じでした。」
卒業後も学び続け、社会で活躍している同級生や後輩たち、更にはより大きな社会貢献の場に羽ばたかれた先生方の姿を見て、そう実感されるとのことでした。
また、OB同士の絆も強く、今でも東京・京都での同期会が定期的に開催されています。2期生の会なので“次男坊の会”というそうです。
「2期生は割と団結が強いのですが、各学年とも今でも多くの同期と繋がっている。これは洛星の強みだと思います。」
洛星に願うこと
「洛星は、当時から受験名門校の一歩先を目指していました。“一歩先”をどう目指すかと云うと、人間性豊かな個人を大事にする教育だと思います。洛星ではミッションステートメントに「生徒一人一人を“神に愛された存在”として慈しみ、自己実現の達成のため生徒を教え導き、その人生が実り多きものであるよう助力することを使命とする。」とありますが、これは生徒一人一人の中に神が宿っているという思いもあり私が作ったものです。キリスト教というよりは神道的なコンセプトですが、洛星に合ったものかなと思っています。
受験も当然大事ですが、今も教職員の中にこういった人間愛のコンセプトが息づいているのは嬉しいし、これは受験を超えるものだと思っています。」
「受験もかなり様変わりしています。幅の広い経験をしようと思ったら、どうしても幅広い経験ができる家庭環境が有利になってしまいます。洛星には様々な分野で活躍する卒業生がいらっしゃるので、そのコネクションを活かしながら是非幅広い学問に触れる機会を提供してあげてほしいです。」
最後に
「洛星は、折り目正しく、しかし自由で創造的な校風を持った学校です。“洛星らしさ”が、今の生徒たちにも受け継がれていることを心から嬉しく思います。」
「これからの洛星が、過去と未来をつなぎ、さらに魅力的な学校へと発展していくことを願っています。」
学校は時代とともに変化していますが、根底にある精神や文化は変わらず受け継がれていることを強く感じました。
インタビュアー:事務局 田邊篤志